ネット銀行の相続でまず行き詰まるのが、口座の特定です。通帳もキャッシュカードもなく、親が使っていたかどうかすら分からない——これはデジタル遺品の中でも、放っておくと最も損失が大きくなる領域です。預金や株式は本来受け取れるはずの財産なのに、存在に気づかなければ受け取れません。本記事では、口座を見つける5つの方法(うち1つは公的機関への照会)、放置した場合に何が起きるか、そしてスマホが開かなくても進められる手続きを整理します。
ネット銀行の相続で口座が見つからない理由
従来の銀行なら、通帳とキャッシュカードが遺品の中から出てきます。ところがネット銀行・ネット証券は、紙の通帳がなく、明細も郵送ではなくWeb上で完結します。手がかりが物理的に残らないため、家族が気づけません。
そして本人が亡くなると、スマホが開かなければアプリも開けない。ここで多くの遺族が行き詰まります。ただ、端末を開けなくても口座を特定する方法はあります。
口座を見つける5つの方法
① 郵便物を確認する
完全に紙が来ないわけではありません。年間取引報告書、税務関係の書類、キャンペーンの案内などが年に数回届きます。亡くなった直後だけでなく、その後1年ほどは郵便物に注意してください。年明けの取引報告書で初めて判明することもあります。
② 既存の銀行口座の入出金履歴をたどる
これが実務上いちばん有効です。ネット口座へ入金するには、必ずどこかの口座から送金しています。地銀やゆうちょの通帳に「振込 ラクテンギンコウ」のような記録があれば、そこが入口です。
金融機関は取引記録を10年間保存する義務があります。通帳が手元になくても、相続人であることを示す書類があれば取引明細を取り寄せられます。
③ メールを検索する
パソコンから故人のメールにログインできる場合、「お取引」「約定」「入金」「明細」などで検索すると、取引先の金融機関名が出てきます。
④ スマホのアプリ一覧を見る
ロックが解除できる場合に限りますが、インストールされているアプリを見るだけで取引先が分かります。中身にログインできなくても、アプリの存在自体が手がかりです。
⑤ 証券保管振替機構(ほふり)に開示請求する ← 有力
あまり知られていませんが、上場株式などの口座がどこにあるかを、公的機関にまとめて照会できます。証券保管振替機構、通称「ほふり」です。
相続人からの請求にもとづき、故人名義の口座がどの証券会社に開設されているかを開示してもらえます。証券会社を1社ずつ当たる必要がなくなるため、「株をやっていたらしいが、どこか分からない」という場合の決定打になります。
分かるのは上場株式・投資信託などを扱う口座がどこにあるかです。残高そのものは、判明した証券会社に個別に問い合わせます。
銀行預金は対象外です。ネット銀行を探す場合は、①〜④の方法か、心当たりのある銀行へ個別に照会してください。
放置するとどうなるか
| 対象 | 放置した場合 |
|---|---|
| 預金 | 10年以上取引がないと「休眠預金等」として預金保険機構へ移管される。移管後も相続人は払い戻しを請求できるが、手続きは煩雑になる |
| 株式・投資信託 | 名義変更されないまま残る。配当金も受け取れず、相続税の申告漏れにつながる恐れがある |
| 暗号資産 | 取引所の口座は相続手続きが可能だが、本人しか知らないウォレットは事実上回収不能 |
とくに注意したいのが相続税の申告漏れです。あとから口座が見つかった場合、修正申告が必要になり、加算税がかかることがあります。「見つからなかった」は理由になりません。
ネット銀行の相続手続きの進め方
- 口座を特定する——上の5つの方法で洗い出す
- 金融機関に死亡を連絡する——この時点で口座は凍結される
- 残高証明書を取得する——死亡日時点の残高。相続税の計算に必要
- 必要書類をそろえる——戸籍謄本、遺産分割協議書、相続人の印鑑証明など
- 払い戻しまたは名義変更を行う——証券は原則、相続人名義の口座へ移す形になる
株式を相続する場合、いったん相続人名義の証券口座へ移してから、自分で売却するのが一般的です。相続人がその証券会社に口座を持っていなければ、新たに開設を求められます。現金でまとめて受け取れると思っていると、想定と違って戸惑うところです。
よくある質問
- スマホが開かなくても手続きできますか?
- できます。相続手続きに必要なのは戸籍などの書類で、端末やパスワードではありません。金融機関が契約情報を確認できれば進みます。
問題になるのは「どこに口座があるか分からない」ことだけです。そこは既存口座の入出金履歴や、ほふりへの開示請求で特定してください。 - 口座番号が分かりません。それでも照会できますか?
- できます。金融機関名さえ分かれば、口座番号が不明でも手続きは進められます。金融機関側で名前・生年月日・住所などから契約を特定します。
心当たりのある銀行が複数ある場合は、それぞれに「取引の有無を照会したい」と伝えてください。 - ほふりへの開示請求は誰でもできますか?
- 相続人であることを示す書類が必要です。手数料と、戸籍などの書類をそろえたうえで請求します。詳しい要件と様式は証券保管振替機構の公式サイトで確認してください。
「株をやっていたはずだが証券会社が分からない」という状況では、1社ずつ当たるより確実で早い方法です。 - 暗号資産はどうすればいいですか?
- 国内の取引所に口座があるなら、他の金融資産と同じく相続手続きの対象です。取引所の相続窓口に連絡してください。
ただし本人だけが秘密鍵を管理していたウォレットは、遺族が回収する手段がありません。これはデジタル遺品の中で唯一「生前に情報を残しておくしかない」領域です。 - 調べても見つからない場合、諦めるしかないですか?
- いきなり諦めないでください。郵便物は1年ほど届き続けることがあり、年明けの取引報告書で判明するケースが実際にあります。
また預金は10年で休眠預金等になりますが、その後も相続人は払い戻しを請求できます。時間が経ってから見つかっても手遅れではありません。
まとめ
ネット銀行の相続は、物理的な手がかりが残らないぶん、探しにいかないと口座が見つかりません。最も有効なのは既存の銀行口座の入出金履歴をたどること、そして株式なら証券保管振替機構への開示請求です。
スマホが開かなくても手続きは進みます。必要なのは端末ではなく書類です。見落とすと相続税の申告漏れにもつながるため、心当たりがあるなら早い段階で照会をかけてください。
参考・出典
- 株式会社証券保管振替機構「登録済加入者情報の開示請求」 https://www.jasdec.com/
- 金融庁「休眠預金等活用法について」 https://www.fsa.go.jp/
- 国税庁「相続税の申告のしかた」 https://www.nta.go.jp/